【前回の記事を読む】『15分で1万円の謝礼』に釣られて…事故物件に見学者を入れてしまった。すると、見学者は突然倒れ…
夜空の向日葵
きっとあなた、あたくしにすがりつく日がくるはず。彼女は捨てぜりふを吐いて、パンフレットを床に落とすと、ドアを閉めて出て行った。
一瞬のうちに起こった出来事に、私は驚きの余り玄関にしゃがみ込んでしばらく動けなかった。しばらくして、何なのあの人、と怒りを通り越して笑いまでこみ上げてきた。女が置いていったパンフレットを拾い上げ、ゴミ箱に投げ入れると、玄関に戻って鍵を閉め、例の部屋のふすまを閉めた。
その三十分後、約束の二時半を十分ほどすぎて、チャイムが鳴った。二組目の客だ。ドアを開けると、ベージュのプリーツスカートに白いブラウスという感じのいい若い女性が立っていた
「無理言って訪問させていただいてすみません。これ、よかったらどうぞ」
この近くの有名菓子店の紙袋を差し出した。
「まあ、すみません」
こんなことなら、茶菓子でも用意しておくべきだった。さっきの訪問客と大違いだ。
「さ、あなたも早く入ってちょうだい」
後ろに誰かいるようだ。
「やだよ、お化け屋敷なんて」
「ちょっと、そんなこと言わないで」
すみません、と女性が軽く頭を下げた。後ろから入ってきたのは、ジーパンにTシャツというラフな格好の茶髪の男だ。左の膝のところがファッションなのか、自然になのか破れてだらしない感じだ。女性がパンプスを脱ぎそろえて入ってきた。後ろから、男がきょろきょろしながら入ってきて、サンダルをハの字に脱いだ。
「私も、ドリーム物件への入居を真剣に考えてまして。住み心地はどうですか?」
「ええ、今のところ、支障はないかしら」
「夜さ、オバケとか出たりしないの?」
男がうんざりした様子で聞いた。あなたは黙ってて、と男の腹を、女性が肘でつついた。
「問題の部屋見せていただいていいですか?」
「どうぞ」
ふすまを開けると、女性はおずおずと入っていった。
「さっぱりした、いいお部屋ですね。ここで人が亡くなったなんて信じられない。こんなことだけで、家賃がお安くなるなんて、あたし、決めた。隣の市に、ちょうど今、ドリーム物件が出ているんです」
「オレ、やだよ。おっかねーよ。夜、トイレ行くの、怖いじゃん。だって、家で亡くなってんだぜ、人が」
「さっきからうるさいわね。元はといえば、あんたの稼ぎが少ないからでしょ」
「お前が稼げばいーじゃん」
「無理よ。子ども、お腹にいるんだから」