【前回の記事を読む】21:30に家のチャイムが鳴った。こんな時間に誰が…。さらに、ドアを「ドン」とたたく音。チェーンをかけたまま外を覗くと…

夜空の向日葵

このところ続く連日の雨の中で、あじさいがいくつも咲いているのが窓から見える。この団地のあじさいはなぜか、ブルー系のものばかりで、きっとそろって何かの成分が不足しているのだと思われた。実は今日、二組の客がこの家にやってくることになっていた。

「ものすごい反響がありましてね」

その連絡があったのは数日前で、職場のコピー機の前で職員から頼まれた大量のコピーにうんざりしているときだった。スマホの振動を感じた私は、急いで廊下の誰もいない荷物用エレベーター付近に移動した。

「何人かが、どうしても実際に物件を拝見したいということなんですが」

「うちを見たいってことですか? それはちょっと」

それは団地の本部の人からで、私のアンケートをもとに作成した動画を見た人から、うちを見たいという話があって、応じてほしいということのようだった。

「それはそうですよね。だから匿名でアンケートにしていただいたんですもんね」

コピー機に置きっぱなしの資料の山が気になった。

「あの、今、仕事中でして」

「すみません。手短にお話しします。一応、みなさんお断りしたんですが。どうしてもあなたにお会いして、物件を見てお話ししたいとおっしゃる方がいらっしゃって。いえ、謝礼はいたします。詳しくはメールさせていただきますので、前向きに検討していただけないでしょうか」

「メールを読んで、しばらく考えさせてください」

謝礼という言葉に弱いのは仕方がなかった。

そんなわけで、どうしてもという二組を、一組十五分限定、謝礼は一万円。問題の場所を見るだけで、プライバシーに関する質問は受けないとの約束で受け入れることにしたのだ。

せめて、玄関にあじさいの一輪でも飾っておけばよかったかしらと思ったところで、チャイムが鳴った。

「ごきげんよう」

やってきたのは、不思議さと派手さを足して半分で割ったような六十代くらいの女だった。手には、赤いチェックのアタッシュケースを持っている。

つばの広い焦げ茶色の帽子をとると、パープルがかった髪の毛があらわれた。大きな花柄がプリントされたワンピースを着ていて、帽子の色に合わせたヒールのある靴をきちんと揃えて脱いだ。

耳元には、大ぶりのイヤリングが揺れている。道ですれ違えば、十人が十人とも振り返りそうな、変わったいでたちだった。こんな人が、事故物件に興味を持って、本当に住みたいと考えているのだろうか。