「おひとりでお住まい?」

玄関を入ってぐるりと辺りを見回すと、その女性は言った。プライバシーに関する質問は受けないということだったはずだ。

仕方なく、ええ、まあ、と私は曖昧にうなずいた。

「問題の部屋を見せてくださいな」

単刀直入に、女性は言った。ねちゃつくようなしゃべり方が、耳に残った。ふすまを開けて例の部屋に招き入れると、彼女はずかずかと足を踏み入れた。突然、彼女はばさ、とその場にうつ伏せに倒れ込んだ。

「だいじょうぶですか」

驚いた私がかけた言葉が終わらないうちに立ち上がり、いつのまにか手にしていた紫の数珠を左手で揺らしながら、

「アントワニスラー、アントワニスラー」

と、呪文のような言葉をとなえながら、上体を左右に振り続けた。あっけに取られて

その様子を眺めていると、今度はくるりとこちらに向きなおり、部屋の中心にきちんと正座して、

「こちらへお座りなさい」

と厳かに言い放った。

その威厳に気圧されるように、彼女の向かいに少し間を開けて座った。すぐ膝の先に、得体のしれない丸いしみがあって、とっさに私は膝をずらした。

「今、座っているところから、あたくし、強い気を感じますの」

「気、ですか?」

気、と聞いて、体がぞわぞわとした。

「この気を鎮めるには、これをここに置くのが最善、いえ必須だわ」

彼女は部屋の隅に置いていたアタッシュケースの蓋をぱちんとならして開けると、中からパンフレットのような物を差し出した。

「これを置くと、どんな気でも静めることができますのよ」

これ、と彼女が指さしたのは、蝶のような形をした黄色いオブジェの写真だ。

「気に、大いなる羽を与え、飛び立たせることができるわ」

「いりません」

すぐさま答えたのは、写真の隣に十八万円と書かれていたからだ。むくむくと、怒りがわいた。

「あの、訪問販売の類であれば、お金もありませんのでお帰りください」

「後悔するわよ。あの時、あたくしの言うとおりにしておけばって」

「いりません」

分からない人ね、とつぶやきながら、アタッシュケースをもって、立ち上がった。

「これだけは言っておくわ。渦巻いていてよ、この部屋には飛び立てずに陣取る、おどろおどろしい気が。このままじゃあなた、いつか絡め取られるわよ」

次回更新は2月15日(日)、11時の予定です。

 

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