【前回の記事を読む】「せっかくだから、今日はここで寝る」「あ、だめ。そこは…」事故物件の“例の部屋”だった。彼女は翌朝……

夜空の向日葵

ドアポケットに放り込まれた分厚い茶封筒は、団地の会社が作成したこの物件のアンケートだった。

「ドリーム物件の決め手になったのはなんですか」とか「今のあなたのドリーム物件とのつきあい方について」などといった十項目から構成されていた。

どうやら事故物件のことを、ドリーム物件という呼び方でPRしたいと考えているようで、ご丁寧にも※印がついていて、欄外に「ドリーム物件」=「事故物件」、つまりドリーム物件とは、ライフスタイルやマインドによって、輝く日常を手に入れることができる夢のようなの物件のことを指します、と注釈があった。

このアンケートの話があったのは、入居後しばらくして、初期不良がないことの誓約書を管理人室に持って行った時のことだ。誓約書と引きかえにもらえる洗剤を受け取って帰ろうとした時、管理人のところへたまたまやってきた団地の本部の人に声をかけられたのが、事の始まりだった。

「あなた、四〇二号室に入居の方ですよね。住み心地はいかがですか」

「今のところ、特に不満もありません」

「そうですか。そういっていただけると、うちとしても嬉しい限りです」

白髪まじりで、私と同年代ぐらいのその男性は、一瞬ニヤニヤしてから、分厚い黒縁のメガネをぐいっと持ち上げると、「実は今、キャンペーンをしておりまして」と、真顔で話し始めた。

「キャンペーン?」

「ええ、うちの物件に住んでいただいている方に、インタビューを行っているんです」

「はあ」