「そうだ」
「外村さんですか?」
「そうだ、竹之下、内密にしておけよ。今は事を荒立てない方が賢明だろう。静かに泳がせておいた方がいい」
竹之下には、泳がせていた方がよい、という社長の真意が分からないようだった。
「社長、奴は銀行の回し者ではないですか」
「回し者?」
「そうです。奴は会社に鹿児島第一銀行から出向して来たとき、先ず何をしたと思います? 佐久から聞いたのですが、固定資産台帳を1週間も見ていたそうです。コピーも取ったりしていたそうです。当時、佐久もびっくりしていましたよ」
「俺も彼が台帳を見ていた、と佐久から聞いたよ。コピーを取ったことまでは、知らなかったな。会社にどれほどの財産があるか知っていてもいい、と聞き流しておいたけどな」
「あの馬鹿、社長にそこまでしか話していないのですか。奴は佐久に、資産台帳に載っている全ての固定資産の謄本を取りに佐久に行かせたそうです」
「そうか、それを銀行に提出したという訳だな」
「奴は一体何をしにうちに来たのですかね」
「佐久の経理部長では心許なかったからね。かねてから銀行の支店長に、財務を担当できる人がいないか、頼んでいたのだよ。
そうしたらね、3年ほど前のことだったかな、本店から徳重専務が見えてね、都城出身の行員がいると紹介された。それがなんと俺の小学校からの同級生の兄貴だったのだ。
その同級生は非常に律儀な男でね、毎日遊んでいたものだ。竹馬の友というやつさ。その兄貴だから間違いないと思って決めたのだよ。
銀行では審査畑が長かった、という話だった。そして、財務はお手のもの、ということだった。佐久にはできない交渉事をお願いしようと思ってね。
しかし、ちょっと気になることがあった。そのとき、管理職の経験が浅いと思った。隣町の支店長しか経験してなかったからね」
隣町とは、人口6千人ぐらいの小さな田舎町のことだ。
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次回更新は8月21日(水)、8時の予定です。