大山主幹はわざわざ玄関まで出てきて、2人を見送った。

伊藤が、驚いたように松葉に言った。

「私が、もう何度となくここに通っていますが、玄関まで出てきて見送られたことはないですね。松葉さん、これは相当脈がありますよ。よかったですね。宮崎からわざわざ出てきた甲斐がありましたね」

「ありがとうございます。伊藤さんのお陰です。森山さんにもよろしくおっしゃって下さい。ところで、手数料は如何ほど考えておけばよろしいでしょうか」

「手数料? 必要ないですよ、そんなもの。わが社の本業ではないのでご心配いらないです」

「そうですか」とは言ったものの、何とも申し訳ない。このままではいけない。

何かお礼をしなければ。何が喜ばれるか、と松葉は真剣に考えた。このあと、伊藤は予定があるとのことで、2人はまた四谷駅で別れた。

1か月ほどして、大山主幹から、正式に松葉工業のアルミ鋳物天井格子を採用することにした、という電話連絡があった。

そのとき、大山主幹から思わぬことが飛び出した。

「アルミ鋳物の笠木を考えていますが、アルミ鋳物は200年もちますか。この美術館は、200年の耐用年数を念頭に設計しています」

「200年ですか。アルミが生まれてまだ200年経っていませんので、データがあるか調べてみましょう。少し、お時間を頂けますか。普通使われている押出し型材の笠木は200年もたないのでしょうね」