第4章 アルミ鋳物の創業

松葉工業の創業期

松葉はお隣の老夫婦に、お詫びに来るのがたいへん遅くなったこと、社長が出張中で失礼していること、今、役場と前向きに協議していることなどを弁解しながら、ただひたすらお詫びをした。

相当なお叱りを頂くものと思っていたが、ご夫婦とも年を取ったので、夜はできるだけ早く終業して欲しい、との話で終わった。

今、役場と協議しているので、その報告を待って、また伺うことを約束して工場に帰った。

同じ頃に工場長も役場から帰って来た。

「役場は同情的でした。松葉工業さんもたいへんですね、と言っていました。担当者が夕方お隣に行ってみるそうです。明日、担当者から連絡させます、ということでした」との報告のあと、工場長が聞いてきた。

「お隣さん、どうでした?」

「いやぁ、お叱りを受けると思って覚悟して行ったのだが、拍子抜けしたよ。お忙しいのにすみませんね。夜、寝るのが早いもんだから、わがまま言ってすみません、って言われて恐縮したよ」

「そうでしたか。心配していました。良い人たちでよかったですね」

工場長も相当心配したみたいだった。

「それでは明日、役場の結果を聞いて、今度は2人で行くとしよう」

翌朝、役場から電話があり、お隣は納得されたとのこと、しかし午後10時を過ぎることはないようにと念押しされたので、時間は守って下さいとのことだった。

役場からのその報告を聞いて、松葉も工場長も安堵した。早速、松葉は、果物かごを持って、工場長と一緒に行った。玄関で呼び出しベルを押すと、ご主人が出て来た。

工場長と2人一緒になって、「この度は、ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」と、深々と頭を下げながらお詫びをした。

すると、奥から出てきた奥さんに、「どうぞ、どうぞ、むさ苦しいところですが、上がって、お茶でも飲んでいって下さい」と座敷に案内され、上座を指してどうぞ、と言われた。松葉と工場長は、たいへん恐縮しながらも、言われるままにそこに正座した。