四
黍良の母から手紙が届いた。やけに厚みがあって、字を書くのが苦手な母にはめずらしいな、と思いながら封を切ると、中には入れ子のように、一通の手紙が入っていた。
それは、晴子の母親からわたし宛てに送られたものだった。晴子の母親は、わたしがいまどこにいるかわからないので、とりあえず黍良の実家に出したのだろう。母はそれを、そのままわたしの所へ送ってきたのだ。
わたしはその手紙の封を切った。便箋には、丁寧な字が綴(つづ)られていた。
『沙茅さん、お元気ですか。わたしたちは、いまでも晴子が亡くなったことが信じられません。晴子はいまでも豊殿で、元気に働いているのではないかという気さえするのです。ところでこの頃、新聞や雑誌、ラジオで、城屋の工場についていろいろ言われていますが、あれはほんとうのことなんでしょうか。女工たちがひどい目にあっていたとか。晴子はそのようなことはなにも言ってませんでしたが、それは家族を心配させたくなかったからなんでしょうか。沙茅さん、ほんとうのことを教えてください。これからだんだん寒くなりますが、どうかお体に気をつけて』
わたしは胸をえぐられるような思いがした。まだ二十代の娘がある日突然亡くなったというだけでも、耐えがたいほどつらいことなのに、その娘が工場でひどい目にあっていたかもしれないという話を聞いて、どれほど苦しんでいるだろう。それも事実ならともかく、まったくの嘘に苦しめられているのだ。
わたしは猛烈に腹が立った。ミホや由香李に対してではない。梁葦さんにでもない。彼女たちは、ただの操り人形にすぎない。そうではなく、悲惨な事故を人を陥れることに利用する、卑劣な、顔のない何者かに対してである。
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次回更新は8月17日(土)、11時の予定です。