第三章 望みどおりの人生

「そうね。でも麻菜美は上昇志向が強いから、女ということで、ずいぶん悔しい思いもしてきたんでしょう。望みどおりの人生を生きるって、苦労も多いから……。麻菜美はフェミニズムに熱心に取り組んできたから、今度の落雷事故で多くの女工が犠牲になったことについても、黙っていられないんでしょう」

わたしは内心、それほんとうかな、と思った。

なにかを真剣に取り組んできた人は、それが自然とひととなりから滲(にじ)み出てくるものである。有富さんがそうだった。

でも梁葦さんからは、そうしたものがまったく感じられなかった。あの西純という記者と、同じ臭いがする。

「梁葦様は、結婚されてるんですか?」

「いいえ、ずっと独身。姉はずいぶんしつこく縁談を勧めたんだけど、本人は頑として応じなかったのよ」

梁葦さんは、望みどおりの人生を生きてきたらしい。その自分の人生を、女として最高のものとでも思っているのかもしれない。そしてそのように生きられない女を、勝手に憐れんでいる。

女がみんな、わたしのように生きられればいいのに、とかなんとか。無学で貧しい女は不幸だと、決めつけているのだろう。でも、しあわせや生きる価値なんて、人それぞれなんだし。