「うん。会社の不正を暴くために、一緒に闘いましょうって言うんだけど、まるで、子供でもあやすような口のきき方をするのよ。わたし、すごく腹が立って……。それで、城屋の工場はまったく問題なかった、いい所だったって、はっきり言ってやったのよ。そしたら、憮然とした顔になってね。沙茅の所では、どうだった?」

「わたしの所でも、同じような感じだった。わたしも、すごく不愉快な人だと思った。鈴花の所に来た記者、『告壇』の人でしょう。なんていう名前の人だった? わたしの所に来たのは、西純っていう男だったけど」

「わたしの所に来たのは、末伸(すえのぶ)って人。狡(ずる)そうな顔をした、不潔な男だった。口先だけは、いかにも同情するようなことを言ってね。わたしがそれを信じたとでも思ってるのかしら。わたし、なにも話すことはないと言って、取材は断ったのよ。でも勝手に、城屋の非道には言葉もない様子、みたいなこと書かれて……」

「そもそも、ミホが変なこと言い出したんでしょう。わたし『告壇』見たけど、工場でひどい目にあわされていたとかなんとか」

「万(よろず)由香李も言い出してるわよ」

由香李の無表情で口だけがパクパクとよく動く顔を思い出していると、鈴花は手さげ袋から、三枚の切り抜きを取り出し、「『告壇』の記事よ」と言って、見せてくれた。

一枚目には、由香李の顔写真が載っていた。鈴花が言った。

「城屋の工場や寮はひどい所だったって言ってるんだけど、内容はミホとほとんど同じ」

二枚目には、『呪われた会社の黒い歴史』という見出しがあった。

「城屋の会社がどんどん大きくなっていったことが、悪意たっぷりに書かれてる」

三枚目の切り抜きの見出しは、『城屋 ボロボロ』というものだった。わたしはため息をついた。これが新聞なんだろうか。鈴花が言った。

「城屋の業績が落ちていることとか、取締役が急に辞めたことを、大げさに書いてるのよ」

わたしはこの荒(すさ)んだ紙面から、内部の雰囲気をなんとなく感じ取った。みんなでニヤニヤ笑いながら、こんな紙面をつくっているのだろうか。

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次回更新は8月10日(土)、11時の予定です。

 

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