第四章 波紋
一
みかんの香りが広がった。
「フルグナの人民は生まれとか健康状態とか、学校や仕事の成績とか、日頃の行いなんかでランクづけされて、厳格に管理されてる。
庶民の暮らしはものすごく貧しくて、なんの自由もない。
国外に出ることはできないし、国内を移動するにも許可がいる。法律なんかないも同然で、賄賂を渡さないと、役所も警察も動いてくれない。
党を批判すれば、強制収容所に入れられる。批判しなくても、疑われただけでもね。濡れ衣を着せられることもよくある。
特別高等警察の取り締まりが厳しいって、ときどき批判されるけど、フルグナの秘密警察に比べたら、全然たいしたことないよ。第一雉斉には、強制収容所なんてないからな」
「収容所には、どのくらいの人が入れられてるの?」
「二百万人ぐらい」
「二百万人!? まさか……」
「ほんとだよ。彼らは奴隷として働かされているんだ。拷問も公開処刑も日常茶飯事で、この十年間で、少なくとも一千万人が殺されたって言われてる。革命のときもひどかったけど、そのあとも、多くの人が殺されてる」
「……フルグナって、そんな国だったの……」
わたしは美奈子を思い出した。