「ううん。『告壇』に、内務大臣のくだらない悪口が載ってたのを見たから。

でも、いまこの大事な時期に、そんなことしてていいのかなぁ。フルグナに占領されたら、なんにもならないよね」

「そうなっても、全統主義者は優遇されると思ってるんだろう。それにもともと全統主義には、祖国という概念はないんだよ。多様な価値観を認めないんだ。世界中の人間が、ひとつの組織のもとで管理されればいいと考えてる」

「……」

わたしは、それはいったいどういう世界なんだろう、と思った。

わたしは霧坂のおばさんに、『銀嶺(ぎんれい)新聞』の糸森(いともり)景子(けいこ)という記者を紹介してもらった。糸森さんは、おばさんの古くからの知り合いの娘さんだという。

わたしは城屋の工場や寮について、ありのままを話した。

糸森さんによると、城屋の工場などはまともな方で、中小規模の縫製会社には、もっとひどい所がいくらでもあるが、そこには、会社の倫理とは別の問題もあるという。

「新興の縫製会社の中には、貧しい外国の工場で、現地の人をただ同然で働かせてる所があるのよ。当然製品は安くなるし、売れるわよ。

城屋は大手だからまだ太刀打ちできるけど、中小企業は値段で勝てない。それで潰れていったり、縫製工をさらに安い賃金で働かせたりすることになるのよ」

「……」

「商品が安くなるのは、いいことだと思うでしょう? でも賃金は上がらないし、雇用も減っていくし、国全体が貧しくなっていくのよ」

わたしは梁葦さんのことを聞いてみた。同じ職業婦人として、糸森さんは梁葦さんのことを、どう思っているのだろう。

糸森さんの答えは意外ともいえたし、やっぱりという気もするものだった。

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次回更新は8月31日(土)、11時の予定です。

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