「ユートピアを政治の力で実現しようとしたら、結局そんなふうになる。
それほど悲惨な国なのに、『告壇』はすばらしい国だって大嘘を書いて、みんなを騙してるんだよ。『告壇』だけじゃなく、蒐優社が出してる本とか婦人雑誌、漫画本なんかもね。
それに最近では、フルグナと闘おうとする政治家やジャーナリスト、企業のスキャンダルをでっち上げて、攻撃するようになってる。
世間はそれを、不正を暴いてる、みたいに思ってるけど、もっとよく真実を見てほしいよ……」
敬明はみかんの皮を小さく折りたたんでいた。
「首相と城屋のスキャンダルも、そういうことのひとつなんだね」
「うん。そうなんだけど、マスコミが悪者としてしつこく報道すれば、そうかと思う人もいるだろ」
「ちょっと待って。蒐優社の人たちは、フルグナがほんとうはどういう国か、知ってるんでしょ」
「もちろん。マスコミの人間は、たいてい知ってるよ。知ってて黙ってる人間と、きちんと事実を伝える人間がいる。雉斉もフルグナみたいになればいいと思ってる人間もいる」
わたしは唖然とした。
「フルグナみたいな国がいいって、どういうこと!?」
敬明は薄く笑った。
「全統主義って、支配される側からすれば地獄だけど、支配する側にとってはユートピアなんだよ。なんでも思いどおりのことができるし、人民を効率よく搾取できるから。
全統主義者の中には、貧困や差別をなくすことを真剣に考えて、地道に活動している人もいるけど、いつのまにかフルグナに利用されてた、みたいな人もいる」
話がどんどん広がっていって、わたしは頭がぼーっとなってしまったが、突然、あることを思い出した。
「内務大臣の……えーっと、北園って人は、首相と親しいんじゃない?」
「首相の盟友だよ。なんだ、政治に興味があるのか?」