「城屋の社長は式風首相の親友なんだって。これまでいろいろと首相を、というか、首相になる前から支援してきたそうよ。それでそのコネで、城屋はいろいろ優遇されてきたんじゃないかとか、女工たちが虐待されてても、役人たちは圧力をかけられて手出しできなかったとか、首相との間で、変な取り引きがあったとか、大騒ぎになってるのよ」

「それって、こじつけすぎじゃない?」

「わたしもそう思うけど、いま国会は、この問題ばっかりやってるんだって」

「国会って、そんな話をする所なの?」

「さぁ……。わたしの父は、フルグナと戦争になるかもしれないってときに、なにをやってるんだって、あきれてるけど。それにこの騒ぎのせいで、重要な法案が通せなくなってるんだって」

鈴花は、足元のぎんなんを草履のつま先で転がしながら言った。

わたしは、あの西純一紀という記者のことを思い出した。彼がわたしの所へ来たのは、事故の話を聞くためではなく、わたしが駒として使えるかどうかを見ていたのだ。それにあの梁葦さん。やっぱりわたしが睨(にら)んだ通り、とんだ食わせ者だったんだ。

城屋の工場は悪い所ではなかった、というわたしの話に耳を貸さなかったのは、すでに、首相を陥れようとする男たちと結託していたからだったのだ。

望んだとおりの人生を生きてきて、そのはてにたどりついたのは、結局、そんなところでしかなかったのか。どこで道をまちがえたんだろう。梁葦さんは男社会と闘うフェミニストを装いながら、実際は男に媚びへつらって、さんざんうまい汁を吸ってきたのではないだろうか……。