② 解剖学などの実習
基礎医学の授業と共に、始まるのが解剖学などの実習です。解剖実習では実習室に遺体が並べられていて、4、5人の班に分かれ、班毎に一体の遺体と取り組むことになります。解剖実習の名の通り、その遺体にメスをいれて順次解体していき、各領域の解剖学的形態などを実地で学んでいきます。
ちょうど同じ時期に解剖学の講義もあるので、系統的な人体解剖を学びつつ、実習でそれを目で見て体得していくことになります。
遺体はホルマリン漬けされていて、匂いに戸惑うこともあり、かつ遺体に取り組むというので、最初は皆それぞれに抵抗を覚えるようです。ほとんどの場合、体の中の局所に注目するようになるので、遺体に対する違和感は次第に薄れていきます。毎年解剖実習がはじまると、その特殊性からついていけなくなる学生も出てくるようです。
この実習は必須なので、これについていけないと落第して進学できません。場合によっては医学部を中退することもありえます。でもここで学ぶ遺体を解体して、解剖を学ぶことは極めて重要です。つらい思いもあるかもしれませんが、すべての医学生にしっかりと学んでほしいものです。
この実習で覚える解剖学的な用語は、その後の医学の学習の様々な所で出てきます。この実習は医学の学習の最も基本となる重要なものです。いわば医師としての診療を支える土台とも言えます。
解剖実習で用いる遺体のほとんどは、生前からご自身の体を、死後に医学教育のために使ってほしいと、献体してくださったものです。実習の最初と実習の終わった後に、ご遺体の面会とお別れの儀式があります。
その遺体を提供してくださった方々に対して、感謝の気持ちを皆が示します。この貴重な遺体のおかげで、自分たちの医学の知識が深まったわけですし、ご遺体が私たちに温かく指導していただいたような気もします。この実習を通して。医師としての自覚が芽生えてくるような印象を受けます。
また医学の知識がこれまでの座学とは異なり、格段に増えると共に、医師としての自覚も出てくるような印象も受けます。
医学部の大先輩で、著名な先生が死後献体をされていました。解剖実習に回すにはしのびないということでしょうか。その先生の全身の骨が、解剖学教室に標本として陳列されていました。そのご遺体は、1年の実習で終るのではなく、長年教室に飾られて、毎年医学教育に貢献できるようになります。
教授からは、この骨は先々代のXX先生のお骨です、と言われて、私たち学生は感心したものです。ただ恐れ多くて、あまり骨の局所を観察しようとの気にはなりませんでした。生前はもちろん、死後も医学教育に尽くしておられるその献身的な姿勢には、あらためて敬意を表したくなりました。
基礎医学の実習には、解剖学実習の他に、生理学、生化学、薬理学などの実習もあります。講義で学んだことを、これらの実習を通して実地で学んでいくことになります。残念ながらこれらの実習では、あまり記載するほどの記憶にはとどめていないことをお断りしておきます。ただここで学んだ手法は、臨床の学習の基本となります。
さらには将来学位を取得するための実験や、海外留学の際の最先端の基礎実験などを進める上でも、極めて大切です。海外留学中の動物実験や基礎実験には、多くの場合、その分野の専門の技術職員がついて支援してくれるので、助かります。
他方その後自分自身で実験をする機会がある際には、自分自身で実験を進める必要があります。このような基礎実習で学習した手法は役立つでしょう。
【前回の記事を読む】難解な内容の講義に次第についていけなくなった学生たち。出席者はどんどん減り、広い講堂に残った学生は10名足らずに…