3 将来役立つ基礎医学

③ 実習の口頭試問

もうひとつ今でも記憶に残っているのに口頭試問があります。学生の講義や実習の勉強成果を評価するには、通常筆記試験が行われます。ここで紹介する口頭試問は、直接学生から言葉で勉強成果をみることができる優れた方法です。

小グループに分かれて先生からいろいろなことを質問されます。たとえば解剖学なら、実際の骨などの標本を渡されて、どこの骨で右左などの位置か、さらには各部位の名称はもちろん、そこに走行する神経や血管は何か、などかなり具体的に質問されます。

解剖実習では参考書やネット情報だけでなく、実際の標本を用いてどの程度しっかり勉学したのか、が分かります。学生実習の中では、実習として体得したことと、参考書などで系統的に学んだことの両方が求められます。

片方だけでは不十分と言えます。試問を実施して学生評価する方としては、小グループごとに試問をするので、筆記試験よりは遥かに負担が大きくなります。

とある解剖学の先生の口頭試問が印象的だったので、ここで紹介します。骨の標本を用いて行っていた口頭試問です。5から8名ほどの学生を一部屋に集め、いろいろな質問を投げかけ、積極的に答えさせます。

そこでしっかりと回答できた学生は、合格と判定されて、途中退出を許可されます。残った消極的あるいはやや不出来な学生は、少人数の中で積極的に回答をすることを求められます。

試問の時間は決まっているので、最後の方になると、残された学生は必死の思いで、何とか満足してもらえるような回答をしようとします。その先生は終了時間になると、できが悪く残った2、3名の学生に、試問の終了と共に学生には落第と告げます。

もちろん落第のままでは進級に支障が出ます。それらの学生は、もう一度の口頭試問の機会が与えられます。学生の要望に合わせて、追試の試問の機会が与えられていたようです。

きっと学生は追試までの間に、本当に必死になって勉強すれば、次はきっと合格するでしょう。

私も臨床実習の際に、のんびり学習しているような学年があったので、この時間を定めた口頭試問のやり方を実践したことがあります。最初は普通の口頭試問です。

きちんと答えられた学生は、合格として途中退席をさせます。このやり方で次第に人数が減ってくると、残されている学生は必死になります。その思いが実施するこちら側にも伝わってきます。

学生は自分がいかに勉強をおろそかにしていたかを実感するのでしょう。口頭試問の終了時間が来ると、残された学生は、愕然  がくぜんとします。もちろん追試の機会を後日に与えるので、それまでの間、学生は必死に勉強します。

追試の際の私の質問に夢中になって答え、あるいは答えられなくても必死で食い下がってきます。きっとこの先生は厳しい、との酷評も受けたことでしょう。でも勉学はどの分野であっても、必死で取り組んでもらいたいものです。

将来いろいろな臨床の場で困惑することもあるでしょう。でも最善の医療を提供し、あるいは最高の医学研究を推進するために、必死で勉学し、勉強成果を表に出していく、さらには周囲と意見交換していく姿勢を、少しでも習得してもらえれば、と願っています。