警察の話でも、坂本のことを悪く言う被害者はいなかったそうだ。ただ、手口がすべて同じだったということに、私の心情は複雑だった。私だけ特別ではなかったのね。

坂本が高齢者から騙し取った金は、約七年間で約五億円もの金額で、一人数十万から百万円ぐらいがいちばん多いという。

今回の事件の被害額は、十年間で総額五十億円あまりと言われた。

この騙し取ったお金は、なんでも便利センターの社長夫婦以下社員の生活費、特に社長の遊興費に消えたことを聞いた、この部分には腹が立った。

坂本には高齢者の懐に入り込む、特技のようなものが身についていた。

警察官に強く被害届を提出するように言われて、渋々届を出したのが、私を含めて三十人だった。逮捕者は、社長夫婦と坂本を含めて二十人にのぼった。全社員の三分の二だった。

こうなった今も、坂本にもう会えないことが信じられなかった。

私は気持ちの整理ができるまで、認知症になったふりをしようか、否、このまま狂ってしまいたいと強く思った。

それからの私の生活は悲惨だった。

まだ七十歳を過ぎたばかりで体は動くのに、息子が嫁を連れて家に頻繫に出入りするようになった。娘も急に家に来るようになった。

子どもたちは、母親が若い男に狂ったか、本当にぼけてしまったと思ったようだった。毎日のように誰かに監視され、とても不自由を強いられた。子どもにしてみれば、そう思うのだろう。

【前回の記事を読む】いつの間にか異性に対する感情になっていた彼から「今月、あと二十万あれば、僕ノルマクリアなんです」とお金を無心され…。

次回更新は7月26日(金)、20時の予定です。

 

【イチオシ記事】「気がつくべきだった」アプリで知り合った男を信じた結果…

【注目記事】四十歳を過ぎてもマイホームも持たない団地妻になっているとは思わなかった…想像していたのは左ハンドルの高級車に乗って名門小学校に子供を送り迎えしている自分だった