夢の記憶

一見、気難しそうな男性も、何度も何度も足を運ぶことで、私を信用するようになった。私の場合、詐欺といってもお金の対価の労働もしたのだから、そんなに悪いことをしたという感覚は正直に言って持っていなかった。

木村さんに対しても、おばあちゃんがあまりにも私を可愛がってくれて、お金が足りないと言うと、一生懸命工面してくれたので、感覚が麻痺して調子に乗りすぎたのだ。

刑務所に収監された私のために、嘆願書を書いてくれたことを、弁護人に聞いたときには驚いた。そんなにも私を大切だと思ってくれた人の気持ちを裏切ってきたのだ。息子さんが激怒して、おばあちゃんは施設に入れられたと聞いた。

母の病院の治療費と火葬代を父に返して、木村さんの息子さんにお金を少しずつでも弁済して、おばあちゃんの介護費用の一部にしてもらおうと、これだけはやろうと考えた。

気がつくと私は、人工心肺装置を付けられていた。

毎日、高栄養輸液と排泄の管を管理し、オムツを替えてくれる病院スタッフ、何時間も私の経過を見守ってくれて、何日も家に帰っていない若い医師たち、それぞれの職務のたくさんの人たちに支えられて生きることができている。

一人暮らしの高齢者で、私と同じウイルス性の感染症にかかり、自宅で誰にも看取られないままに、亡くなった人が多くいると聞いた。人生は些細なことで大きく変わる。ちょっとしたタイミングの違いで、救われもするし、命を落とすこともあるのだ。

私の入院は、リハビリも入れて二か月にわたった。ここでゆっくり、今までの人生を振り返り反省することもできた。私は五か月前に保護観察が解けて、就労支援を受けていた。引き取ってくれる会社も決まって、今度も便利屋なのだが、もう詐欺はやらない。心に誓っていた。