一粒の種子たね

葬式は出せなかった。

直葬を行い、母さんは骨壺に入れられて戻ってきた。母さんの兄弟は誰も来てくれなかった。

父さんは、火葬場までは来てくれたけど、俺に言い放った。

「かかった金は、お前が働いて返せ。今日から一人で生きていけ。もう一切、俺に頼るな」

そう言うと、俺の手に請求書を押しつけた。父さんも叔父さんも、生きている人は冷たい。

母さんが入った骨壺だけがまだ温かく、そして重たかった。

父さんと場末の中華そば屋に入った。このとき食べた冷やし中華が、何日ぶりかで口にした食事だった。二人ともなにもしゃべらなかった。

冷やし中華はやけに、塩っぱかった。

  

心の中の杭

母さんが死んで、とりあえず一人で生きていかなければならなくなった。近所の人はまるで腫れ物に触るように俺に接し、そして寄りつかなくなった。

まだ幼稚だった俺は、社会的な制度を知らず、自治体や役所に相談に行くことなど、考えが及ばなかった。母さんの生前から親戚づき合いも乏しく、葬儀にも来てくれなかった人にどう頼っていいかもわからなかった。

遠くの親戚より近くの他人だ。