プロローグ

草原に生い茂る草は、私たち二人の顔を覆い隠すほどの高さに成長している。手入れする者がいないのか、枯れ草を乗り越え、次々と生え出てゆくさまが青々としたイネのような植物から見てとれる。

彼女は行く先をあらかじめ知っているかのように、伸び広がる草の間をするすると抜けて行く。おかげで私は、それを追いかけるだけで精一杯だ。

「ほら、早くはやく!」

女の子は笑ってくるっと向き直り、こちらを見る。蹴り上げたスカートの裾が、ぱっとひるがえった。

息が詰まりそうになるほど、ドキンッと胸が躍った。ただ、駆け出しただけのこと。手をつなぎ、一緒に走ること。それだけなら、弟の白露(しろ)ともしたことがあるのに。ところが、私の胸はドキドキと高鳴った。それは走って息が切れるときのドキドキ感ではなく、胸と腹とがきゅんと締め付けられるようで、もどかしさすら覚えるような、そんなドキドキ感だった。

思えば女の子に手を引かれて一緒に走るなんて、生まれてこのかた経験がない。この様子を外から見ると嬉しいような恥ずかしいような、たまらない気分になる。顔が真っ赤に火照って、思わず少女の手を払いのけたくなる、そんな気持ちだ。

手のひらの柔らかさや、草むらの中に匂う彼女の香りが一段と強まったような気がして私は手に汗を握った。

女の子の太ももの、雪のような白さによるのだろうか。

彼女と同じように、私もワンピースをたくしあげていることによるのか。

草原はどこまでも青く、ふさふさと体をなでる。私よりもやや背丈の高い女の子は、私を尻目に、風を切って草原を駆け回る。彼女の笑い声に、私もまたとても嬉しくなって笑い声を上げた。ドキドキ感はいつしかふわふわした不思議な感覚と変わり、私は女の子の手の温もりにもっと触れていたい気分になる。

「……ねえ!」

彼女は再び振り返り、一瞬だけ足を止めようとした。私が「どうしたの?」と尋ねる前に、腕が抜けるかと思うほどの強い力で私の右手を引っ張った。驚いてつんのめりそうになったその瞬間、顔の横を大人の男の手がするりと伸びて、女の子の赤いスカートをつかむ。