草の海の間に女の子の体が消えた。
またたく間に彼女から引き離されて、私は土の上に転倒した。草の上なので、目立つような怪我にはならなかったが、痛みと驚きがある。
しかしその感情も、草原のあちら側で彼女を五、六人の男たちが取り囲んでいるのが見えた時、たちまちにして消え飛んだ。黄色い靴下を履いた彼女の足が、ジタバタとあらがっている。
幼年の私は、がむしゃらに飛び掛かった。
女の子を押さえつけ、スカートを引きちぎろうとする男の腕につかまる。奮闘及ばず、振り払われて私は草地に転がった。間髪入れず、今度は「やめて!」と叫びつつ、まっしぐらに駆け寄った。
男は怒気をおびた声を上げて私を突き飛ばした。私は頭に完全に血が上り、男が何と言ってるのかさえ分からない。したたかに尻餅をついた。心の中は、真っ赤に燃える炎のような怒りで煮えたぎっていた。心臓の鼓動は一層早まり、苦しさを覚えるほどだった。
それでも、それでも女の子を助けたかった。
「あぁあぁあっ!」
声の限り叫びつつ、飛び掛かる。涙があふれて、私はめちゃくちゃに腕を振り回した。すると、そのうちの一人の男が、いかにも面倒だというように私を後ろ手に組み敷き、地面に押さえつけた。子どもを相手にしているとは思えないほどの力の強さで、私の胸は土に押され、うっ、と詰まる。
それでも顔を上げると、少女の眸双(そうぼう)が視界に飛び込んできた。真っ黒の瞳が私を見つめ返している。悲鳴も上がらなければ、声も言葉も何もない。一切の感情を宿さない真っ黒の瞳が、こちらを見つめ返している。
女の子の小さな体は男たちの大きな体の下敷にされ、少女が穿いていた赤いスカートが、びりびりに引き裂かれてそこら中に散乱している。私の顔には、いつしか殴られたあざができていて、噛み締めた唇から血が出ていた。
男たちに殴打されたことによるのだろう。私の顔面にはそこかしこに青あざができていて、きつく噛み締めた唇には血がにじんでいた。
やみくもに暴れたが、大人の男の力に勝てるはずもなく、女の子の白い肢体は私の目の前で緑の草の上に投げ出された。
男たちの群れが、無抵抗の少女の体を肉の塊のように扱うのを、私はただ見ているより他なかった。
それが、どんな行為なのかを、当時の私は知らなかった。
鼻先に、草や地面以外の臭いが漂う。
幼年の私は、おいおいと泣いていた。
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