信玄は、『これは一本取られた』とわしに褒美をくれたのだ。そして、謙信公が京に上洛している間は、越後に攻め込まないと確約をしてくれた」
斎藤は、にんまりと顔をほころばせた。─どこにオチがあるのだろう。斎藤様の自慢話ではないか。
尋一は、洞察力の深い斎藤の話とは思えないという顔をしながら、聞いていた。
「お主は、わしの自慢話と思って聞いているだろう。確かにこれは、とっておきの自慢話だ。しかし、ここからが本題だ。良く聞くが良いぞ」
斎藤は、いつでも心の中を見透かすので、尋一は背筋がヒヤッとする。それから、斎藤は核心を話した。
「わしは信玄との会見のため、信玄の居城、躑躅ヶ崎館 (つつじがさきやかた)に行った。その会見の間、わしは武田家の強さの秘密を探るべく、部下たちに信玄の館周辺を内偵させた。
それをきっかけにして、その後、何度も武田の内情を調べ上げた。そして、遂にその強さの秘訣を発見したのだ。信玄の強さは、軍師の山本勘助を始め、優れた武将たちにあると思っていた。しかし、それは違った。
信玄の本当の強さは、情報収集力にあったのだ。信玄は、〝三(み)ツ者(もの)〟と呼ばれる甲州忍者を抱えている。その者たちが諸国から集めた情報を分析し、調略などに用いることで、合戦を有利に進め、常勝軍団を作っていたのだ。
また、驚くべきことに、女性だけの甲州忍者集団も存在している。武田くノ一と呼ばれる集団は、巫女(みこ)に扮して、全国各地を遍歴し、ありとあらゆる情報を集めている」
風魔忍者のような軍団が、武田家にもあるのかと驚き、話を聞いていた尋一は、斎藤の次の言葉でさらに驚いた。
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