海津城(かいづじょう)
謙信対信玄の一騎打ち
「そこにいるのは、信玄か!」
白馬に乗った上杉謙信が、武田本陣中央に座る武田信玄に向かって一喝した。
「如何(いか)にも。わしが、武田信玄である!」
そう応えた床几に座る信玄に向かって、馬上から謙信が信玄目掛けて鋭い太刀を浴びせた。信玄は、咄嗟(とっさ)に右手の軍配でその太刀を防ぐ。
「信玄。その命、頂戴致す!」
「お前にそれができるかな」
追い詰められた信玄は、尚も太刀を抜こうともしない。悠然と床几の上に跨(またが)り、右手に軍配を握っていた(実際は、謙信が太刀を抜く暇を与えなかったのである)。
正午に向けて、高くなって来た太陽が、銀色の謙信の甲冑を照らす。謙信は、頭には白頭巾をかぶっていた。
「信玄、覚悟!」
そう言い放ち、謙信は、信玄に太刀をさらに二回浴びせた。
信玄は、今度は、ずんと立ち上がり軍配で太刀を受けた。
その時、信玄の横から、信玄家来の中間頭(ちゅうげんがしら)、原虎吉(はらとらよし)が謙信の騎乗している愛馬、放生月毛(ほうしょうつきげ)に槍を当てた。
驚いた謙信の愛馬は、頭を上げ暴れ出す。謙信は信玄を討つことを諦め、鋭い眼光を向け、悔しそうな表情を浮かべながら、自分の軍勢の中に戻っていった。
信玄が自身の持つ軍配を見ると三太刀浴びただけなのに、刀の傷跡が七つもあった。