風魔の里

応仁の乱から室町幕府の威光が陰り、日本各地に戦国武将が群雄割拠していた一五五八年十一月末。

その群雄の中に、伊豆・小田原を領有し、さらに関東へ領国を拡げようとしていた北条氏がいた。

北条氏領国の一角、ここ足柄(箱根と小田原の間)に忍者が暮らす里があった。風祭 (かざまつり)という地名の近くの風間(かざま)村(風間谷)には、約二百世帯の忍者の集団が住んでいた。

この里を統括するのは、風魔忍者の頭目、四代目風魔次郎太郎である。

四代目は、集められた忍者二百人を前にして命令を下す。忍者たちは、片膝をつく忍者座りで発せられる言葉を待っていた。晩秋の冷たい風が蕭条(しょうじょう) と吹く。

「皆の者。三日後にまた戦になるぞ。小田原の北条幻庵(げんあん)様(北条氏親族)よりお達しが来ている。此の程、北条様が取得した沼田城(群馬)周辺の敵を一掃するのが、今回の任務だ」

三十八歳になる四代目風魔次郎太郎は、向こうの谷まで届く声で二百人の忍者に伝達した。

「合点承知の助。破壊工作なら任せておくんなまし」

九人いる上忍 (じょうにん)の一人、臨太郎(りんたろう)がそれに応える。臨太郎は当時としては珍しく、鉄砲を持ち、煙幕や炎などを扱う、火遁(かとん)の術にも精通していた。臨太郎の女性のような話し方に一同は爆笑する。

「臨太郎。女の真似をするのは、任務の時だけにしろ!」

座りながら聞いていた二百人の上忍・中忍(ちゅうにん)下忍(げにん)たちは、また爆笑する。

「北条様は、駿河(するが)(静岡)の今川、甲斐・信濃(山梨・長野)の武田とは三国同盟を結んでいる。敵は、越後(新潟)の上杉のみ」

「おお!」

四代目屋敷前の広場で頭目の言葉を聞いていた忍者たちは、一斉に雄叫びをあげた。

頭目と部下の忍者たちが意気投合する姿を見て、尋一(じんいち)は、心を躍らせていた。