風魔の里
「三日後は、いよいよ俺の初陣だ。武士ではないながら思う存分活躍して来る心づもりだ」
尋一は興奮気味に婚約者の杏に話す。
「あまり無理はしないでね。貴方が無事に帰って来るのを待っているわ」
「来年の祝言を挙げるまでは、死ねないよ。ハハハ」
「祝言を挙げるまで……じゃなくて、祝言を挙げた後も……でしょ。アハハ」
「杏と婚姻できるなんて、夢のようだ。昔から俺は杏のことが好きだったんだ」
「昔からって、貴方、今いくつ? まだ十四年しか生きてないでしょ」
「お前も十四年しか生きてないじゃないか」
そう言い合って、二人はまた一緒に笑い声を上げた。
二人がそんな話をしていた時、杏が夜空に浮かぶ、砂粒のような数えきれないたくさんの星を見て、大きな声を上げた。
「見て、あの星、私に向かって光っている」
「ばかなことを言うな。星は、皆に向かって光っているんだぞ」
「そんなことないよ。あの星は絶対、私に向かって光っているって」
杏が指差した先には、他の星より一際大きく輝く〝北極星〟があった。この星は、北の空に、いつも同じ位置で光っていた。
「杏の夢は、とてつもなく大きいということだな。俺は、杏の夢を叶えるために何になろう? 一国一城の城主で、お前がその奥方というのはどうだ。面白いだろ!」
尋一は、今すぐにでも叶えてやるという表情を浮かべながら、杏に目を向けた。
「一国一城のお殿様の奥方か。悪くないけど、少し違う気がするわ。まだ、子供だもん。どうなりたいかは、わからないわ。でも、あの星だけは、私に前に進めと呼び掛けている気がするの」
二人が話し終え、孤児の館〝一体館〟に入ってしばらく経った時、夜空に流れ星が落ちた。