風魔の里に立ち寄っていた尋一も遅れて、斎藤の居城である赤田城に戻った。

斎藤に帰還の挨拶をすると、斎藤は喜んで尋一を自分の居室に呼んだ。

「よく戻ってきたな。自分の感情を自分で制することができるようになれば、大人物になる。大人物になれば、必ず自分の望む結果が訪れる。尋一は、よく辛抱している。辛いであろうが、堪えるのだ」

斎藤は熱を込めて語る。

「はい。自分を信じて行動して行きます」そう応える尋一に、

「一つ、面白い話を聞かせてやろう。昨年、わしが武田信玄の下(もと)に使者に行った時の話だ」と斎藤は話し始めた。

尋一は、いつも斎藤から運命とか大人物とか抽象的な言葉しか聞くことは無かったため、初めて具体的な教えを頂ける気がした。

「謙信公がお忍びで京に上洛する時、武田信玄の動きを封じ込めることが、わしの使者としての役割であった。謙信公が留守の間、信玄に我が領国を攻めないようにお願いをした。

ところが、信玄は、その申し出に答えようとせずに、わしが片目であることと足が不自由であることを指摘し、こう言ってきたのだ。

『小兵(こひょう)(背が小さく)で隻眼、足を引きずっているのにお前は禄をもらい過ぎではないか』と。透かさずわしは、信玄に言葉を返してやった。

『そちらの武田陣営にも、足が不自由で片目の山本勘助という背の低い名軍師がおられるではないですか? その方の禄も少ないのでしょうか?』