武田くノ一

尋一は目を閉じ、口をつぐみ、心の中で悲痛な叫びを上げながら、自分で自分を律した。そして、深呼吸を繰り返し、徐々に落ち着きを取り戻してから斎藤に話しかけた。

「斎藤様、わかりました。鳶加藤の件は、堪えます。実はここに残るか、元にいた集団に戻るか迷っていたのです。私はここに残ることに決めました。ただ、私がここにいることを元にいた所属集団に報告することをお許し下さい」

尋一の真剣な表情を見て、斎藤は、「そうするが良い」と一言で返した。

鎌倉から、風魔の里に一度戻った尋一は、四代目頭目を見つけて話をした。

「現在、越後の武将斎藤様の所にいます。私の命を救ってくれた方です。この方に付いて行こうと思っています」

四代目風魔次郎太郎は、「よし、わかった」と短く返した。

尋一と頭目との話し合いを見守っていた風魔の上忍たちも、尋一が生きていたことに喜び、「頑張れよ!」と励ましの言葉を送るのであった。

杏の話は尋一もしなかったが、風魔側からも話が出なかった。風魔側では、何か情報を掴んでいたのかもしれないが、尋一に告げない方が良い情報だったのだろうか。

尋一も運命を信じると自分に言い聞かせ、自分で自分を応援するのであった。

─杏とは必ず再会できるであろう。

上杉軍は、関東に攻め入った翌年の一五六一年三月、関東を引きあげた。謙信は、本拠地の春日山城(上越)に引きあげ、斎藤も自分の居城である赤田城に戻った。