【前回記事を読む】スパゲッティ、ジェラート、ピッツァ…妹を置き去りにして、祭りを満喫した。しかし妹の体調は……
Ⅰ 少女
第3章 マントヴァの秋祭り
イザベラは歩き出したが、足取りは力なく、目は虚ろであった。
後には一人の若い侍女が付き従うだけであった。
「姫様、どうなさったのですか?」
侍女の声にイザベラは、はっと我に返った。
「船着き場は、向こうでございます」
気がつくとイザベラは、船着き場とは逆の方角に来ていた。
「いいえ、何でもないの。まだ少し時間がありますから」
侍女はいぶかしげであったが、何も言わなかった。イザベラは、物思いに沈む自分の表情が、侍女にそれ以上言えなくさせてしまっているのであろう、と思った。いつの間にかイザベラは湖のほとりに来ていた。
「あっ、この湖は」
イザベラは顔を挙げた。湖の向こうには、マントヴァのお城がそびえ立っていた。四隅の塔、石の壁、その向こうに見えるドームの屋根。イザベラが7歳の時に見た、そのままであった。
「あの中にいらっしゃるのだわ」
イザベラは、灯りのついている窓もついていない窓も一つ一つ見ていった。
イザベラは、ふらふらと聖ジョルジョ橋の所まで来た。この橋の向こうがマントヴァのお城の正面である。イザベラはじっと石の壁を見つめ続けた。夕暮れの風が冷たく吹き始めた。
やがてイザベラは静かにきびすを返すと、そのまま立ち去った。