イザベラは母の所へ飛んで行った。

「お母様、大変です。フランチェスコ様をお止めしなくては」

「急にどうしたの」

イザベラは今侍女から聞いたばかりの話を伝えた。母は一点を見つめたまま黙っていた。

「でも、お母様、フランチェスコ様はお聞き下さいますでしょうか?」

母はなおも黙り続けた。

「お母様、私は心配です。でも、もしもお聞き届けいただけないのなら、却ってフランチェスコ様の御心を乱して……」

イザベラは泣き出した。

「貴女の言うとおりだわ。フランチェスコ様は、絶対におやめにならないでしょう。私たちは、ただ神様に祈りましょう」

母は静かに言った。イザベラは肩を震わせて泣き続けた。

トーナメントを2日後に控えた夜、母はイザベラに言った。

「私、ミラノに行ってこようと思うの。貴女は来ない方がいいわ。もしも貴女が見てるってお知りになったら、フランチェスコ様は平常心を失われるでしょう」

イザベラは、何も言えずに母の顔を見つめた。

翌朝早くイザベラは母を見送りに出た。空気は澄んで冷たく、あたりは霧が立ち込めていた。馬車に乗る前に母はイザベラの目を見て言った。

「気を強く持つのよ」

イザベラは涙ぐんでうなずいた。

「ほらほら」

母はハンカチを取り出すと、イザベラの涙を拭った。

「さあ、笑って。明るい所にだけ幸せがやって来るのよ」

イザベラは笑って見せたが、後から後から涙がにじんできた。

「イザベラ、どこまでも神様を信じなさい。神様は必ずお守り下さるわ」

馬車はやがて霧の向こうに去って行った。

イザベラは自分の部屋に戻ると、目を閉じ、手を合わせてひたすら祈り続けた。涙がとめどなくこぼれた。胸が締めつけられる様に痛んだ。

 

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