足早にトイレに駆け込んで個室の扉を閉め、抹茶ソフトを一気に便器に流す。瞬きもせず、トイレの水が抹茶ソフトの緑色に変わって流れていく様子を呆然と見つめた。

トイレでは目にするはずのない「緑色の水」を見つめながら、栞はこの光景は異様だと思った。処分できた安堵の気持ちより、食べ物を隠して捨てた罪の意識と、自分のとった異常な行動に栞の気持ちは鉛のように沈んでいった。

何をしているんだろう、どうしてこれくらい食べられないのだろう、何で食べ物のことでこんなにコソコソして苦しむのだろうと重たい気持ちを抱えたまま席に戻り、再びパソコンに向かった。

「あれ? 栞、もう抹茶ソフト食べた? 早いね」

「あぁ……うん、美香、悪いけどここ教えてくれる? どうしてもエラーになるんだよね」

咄嗟(とっさ)に話を切り替えて美香とパソコンの画面を見つめたが、栞の胸の動悸はなかなか治まらず、訝(いぶか)しげに見つめる課長の視線にも気づけないでいた。ただのダイエットのつもりが、いつの間にか痩せていることが何よりも価値のあることに変わっていた。

初めは一時(いっとき)の間、甘いものやお菓子を制限するだけのつもりだったのに、自分でも気づかないうちに制限の範囲は広がっていった。

体重計に乗れば、結果がはっきりと目に見えて数字に表れることで、それがそのまま努力が報われたように感じ、栞の喜びとなった。頑張りが報われて確実に成功しているという実感が自身を高揚させていたともいえる。

「自分で食べていいと決めたもの以外は、絶対に食べない」

栞は自分を甘やかすことなく自分で作り出したルールを忠実に守り、痩せることへの願望を抱き続けた。抹茶ソフトクリームの一件に限らず、食べ物のことが原因で日常の生活で困る出来事は何度も起こった。

そもそも家での食事が厄介だった。食べてはいけないと自分で決めたものがどんどん増えていったからだ。

カロリーの高いものは口にしないと決め、一日の摂取カロリーを一二〇〇キロカロリーまでとするために、食品成分表を何度も読んで食べ物のカロリーをしっかりと覚えていった。

母の多恵子が用意してくれる食事は、ほとんどが食べてはいけないものに変わってしまった。

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