アザレアに喝采を

Ⅰ 節制

家に帰ると揚げ物の油の良い香りがする。

「お帰りなさい。今夜は海老フライにしたわ。たまにはちゃんと食べなさいよ。栞はちっとも太ってないじゃないの」

綺麗に衣が付けられた海老がバットに並んでいる。

「雑炊でいい」

栞は言葉少なに言うと、海老の衣を水で洗い流してしまった。多恵子はあっけにとられてその様子を見ていたが、怒ったような困ったような多恵子の表情を栞はまともに見ることができなかった。

せっかく用意してくれる多恵子の手料理を栞は台無しにし続けた。申し訳ない気持ちと恥ずかしさと、絶対に食べてはダメなのだという気持ちの狭間(はざま)で苦しんだ。

けれど栞にとっては、自分で作る雑炊だけが安心して食べられる夕食だったのだ。

少しのご飯と水を入れて、一人用の小さな土鍋を火にかける。具はネギとえのき茸と卵。それに今夜は海老も入れる。

朝はトースト一枚と紅茶。昼は会社にお弁当を作って持っていくようになった。ご飯と茹でた野菜と、ボイルした魚かゆで卵を小さな弁当箱に詰めた。不味くはないが、どれも美味しいものでもなかった。濃い味は砂糖を多く使うので、味付けはほとんど塩だけの薄味にした。