第二部 舞台の下手
闇夜が爪を研ぎ、ひと抱えもある月の光を引き裂いた。
だから、月は片割れになった。
闇夜は、その身体の中に星も太陽も私のハヤブサも隠している。
言葉も私は失くした。
私の大切な、あの美しい詩を返してほしいと、私は闇夜に言うが、
何も答えず、私の前から姿を消す。
夢はここでいつも終わる。
「ガブリエル氏の屋敷」
今朝、冷たい空の中に、香ばしい光の粒があった。「荷物が重すぎて片方の車輪が壊れた荷馬車のようなオンボロ船が港に着いた」と肉屋の主人イワン・オルコットがムッシュ・ワルツに知らせに来た。
雪に閉ざされた間、無口だった島の女の人たちが鳥のさえずりみたいにしゃべり始めたと、イワン・オルコットは出っ張ったお腹を撫でながら笑った。
冬の冷たさはそこいら中に漂っては消え、背中を丸くしてはまた戻ってくるが、ある日、冬の緞帳は不意に下りる。そして、ホコリっぽい濁ったうすら寒い風がこの島に吹き渡る。私は春が嫌い。奪われたような気になる。
私の名前はカトリーヌ・イリヤ。
そしてもうひとつの呼び名は孤児のカトリーヌ。島の人たちは私のことをこう呼ぶ。私はこの世の果てに位置する「月の光に照らされた島」の本屋で、ここの主人のムッシュ・ワルツと暮らしている。
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