第二部 舞台の下手
「不思議な滞在者」
三月も終わりの雨が降るある午後、イロンデイルの屋敷にひとりの来客があった。二階の三つのゲストルームのひとつにその客は滞在することを私はメイドのカーラ・グリーンから聞いていた。
というか、久しぶりのお客様なんだから、とカーラが私より少し年上のもうひとりのメイドのジェーン・フォンテーヌブローに言っている場所に居合わせただけだが、カーラのいつもより華やいだ口調にジェーンは鼻白んでそっぽを向いた。
「ジェーン、このお花をあの方のお部屋へ持っていってちょうだい」
「あの方って、どの方ですか?」
ジェーンは私に目配せした。
「わかりきったことを聞かないでちょうだい。ジェーン」
カーラは、右の目尻と声を尖らせた。
カーラが何歳なのか、はっきりは知らないけど、おおよそ見当はつく。たぶん三十代半ば。赤毛の髪にツンと尖った鼻と顎。灰色がかったブルーの目。私の歳の頃の彼女はとても綺麗だったに違いないが、それをこの人は認識していたはず。今もきっとそうだ。
「気取っちゃって、気持ち悪いったら」
ゲストルームのランプシェードのホコリを払う私に向かってジェーンは言った。私は答えない。
「カトリーヌ、あんたのことじゃないよ。すましやのカーラのことだよ」
それでも私は答えない。
「黙ってばかりいないで何か言ったらどうなの」