ジェーンはそばかすの浮いた頬を上気させて自分の太ももをピシャリと打った。

「何も言うことはありません」

「ふん、あんたもカーラと同じ気取り屋だね」

ジェーンと初めて会った時のことを私ははっきり覚えている。マダム・ガードルードの隣で骨ばった肩をすくませ両手を腰のあたりで交差させてジェーンは私を無遠慮にじろじろ見ていた。

私の隣にはこの屋敷の仕事を口添えしてくれた医者のドクター・リヒテルが立っていて、マダム・ガードルードにしきりに話しかけていた。たぶんその頃、島で流行っていた流感の初期症状について話していたような気がする。

マダム・ガードルードは、聞いてもいないのに、このお医者ときたら、と言いたげに短いため息を何度かついたあと、ジェーンに視線ひとつで私を家事室にまず連れていくように指示をした。

「私はジェーン・フォンテーヌブロー。あなたは?」

「私はカトリーヌ・イリヤ」

「あなたって不思議な顔してるわ。心ここにあらずって言いたそうな顔」

心ここにあらずって、それは本屋のワルツじいさんのことなんだけど。日当たりの良い南向きにある家事室は私がワルツさんと暮らす本屋よりうんと広くて、石鹸の匂いが部屋中に満ちていた。

光は裏庭に面した大きなふたつの窓から斜めに入っている。柔らかい暖炉の灯りと同じ橙色の光だった。木の棚にはきちんとたたまれたたくさんのベッドカバーやリネン類が重ねられている。豊かな感じがした。