大理石の床を見ても、ワルツさんが見たこともない飲んだこともない種類の酒瓶が並べられた部屋を見ても、毛足の長い絨毯の上を初めて歩いた時も感じなかった、豊かな感じだ。
「この部屋が気に入ったのね」
「はい、とっても」
「でもそのうち、嫌いになるわよ、きっと」
首をひねって後ろのジェーンの顔を見ると、彼女は怖い顔をしていた。私は今もこの家事室が好きだ。ジェーンが言った意味がわからない。
だから私はこの家事室での仕事にせっせ、せっせと精を出す。そんな私をジェーンは気味が悪いとしきりに言うが、私はどうってことはない。
カーラは、屋敷の裏庭に立つ苔だらけの石の塔が気味悪いと言うが、それもどうってことはない。気味の悪いものは取り繕ってないから私は平気だ。
四月になった。気まぐれな女が一晩で淑女になったみたいだなと、ワルツさんは今朝、空を見上げて可笑しそうに呟いた。何のことなの?と私も笑うと、いやいやとじいさんは頭を振りながら、また、笑った。
もうすぐ島の表面は白いサンザシとニオイニンドウと野ばらの白に覆われる。片割れを探し続けていた月は望みを忘れ、コトリと音も立てなくなる。
島の人たちもすっかり忘れる。「囁き森」のこともすっかり忘れ、浮かれた顔で隣人とのおしゃべりに興じる。遅くやってきた春と早すぎる夏の終わりまで、それはずっと続くのだ。
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