僕は本屋の橙色の灯りを思い描いた。

温かい色だ。

今頃カトリーヌは、僕とワルツさんの好きなスウプを作っているに違いない。

小さく刻んだショウガ入りのスウプだ。

ワルツさんといえば、肘掛椅子に座って居眠りをしている時間だ。

食事ができたとカトリーヌが声をかけると、おお、そうかと言ってよだれを拭く。

そして、決まってカトリーヌに叱られるんだ。

よだれをセーターの袖で拭いちゃ駄目だって。

そしたらさ、ワルツさん僕に片目だけで笑いかけるんだ、きっと。

でも、僕はもういない。

 

カトリーヌ、「囁き森」が僕を呼ぶ。

ケンタウルスの墓場が僕を呼んでいる。

覚えているだろう。

カトリーヌが本を焼かれたと僕に告げた日のことを。

あの時、僕は決心したんだ。

奥さんを殺すことを。

奥さんを殺したのは僕だ。

僕は憎んでいたからね、後悔なんかしていない。