昨日ナンシーがおいしいスープを作っていたキッチン、そこから伸びる白いリノリウムの階段、声はその上の方から聞こえてくる。光に向けた狢の瞳孔は横から見た碁石のように細くなった。
カトマンザにこんなに明るい場所があったなんて……。
上がっていくと意外なほど広い場所に出た。声の主は靄(もや)が作り出す虹のベールの向こう側にいた。
「オハヨー、オハヨー」
南国色の美しい羽、おしろいを塗ったような白い顔、踊り場の止まり木に大きな赤い鳥がいた。
「やあ君だったのか」
階段はそこから角度を変えて屋上へと続いていた。
ナンシーは鉢に入った揺れるユッカの前の揺り椅子に座っていた。ラッキーはひげそりの最中、光の屋上(ラブドーム)の敏腕(アビリティ)、Mr.荻(おぎ)の見事な手さばきで見る間に包帯だらけのイカした紳士になる。
ベイビーフィールのベイビードールを着替えさせているのは雪花菜(きらず)ばあや、その後ろで長い金髪をほどいて座っているカナデは奇跡のように愛らしい。
「おはよう狢、ジギーの声が聞こえた?」
「おはようカナデ、バッチリ聞こえたよ」
「ふふっ、よかった」
「みんなここにいたんだね」
太いシッポを振りながら辺りを見渡す狢。
「なんて明るいんだ」
「ここはカトマンザの屋上、光の屋上(ラブドーム)」
「ラブドーム?」
【前回の記事を読む】一人の老紳士が石の砦の番をしているのはカトマンザの闇の奥に広がる……森?