【前回の記事を読む】精神を集中(スピリチュアルビューサイト)し、見えてくる情景(シーン)に心をゆだね、彼女をその中へと引き込んでいった。
第一章 新たな訪問者
カトマンザ
「カプリス、僕は」
「おかえり、よく戻ったね狢、君はどんなにあの少女の救いになったかしれないよ」
「カプリス、僕は間違った、自分の情景(シーン)に亜美を連れ込もうとした」
「間違いではないよ狢」
「だってここへの来方(きかた)はみんな違うのに」
「大丈夫、間違いではない、それもありだ。ただそこに彼女の高揚感(エレべーション)がともなわなかっただけさ」
ベイビーフィールが震えている。小さな声で「金魚」と言ったような気がした。
赤い金魚がベイビーフィールを悲しいほど驚愕(きょうがく)させたのだ。ナンシーが寄り添っても戦慄(せんりつ)を帯びた小さな身体は震え続けていた。カプリスの声は真上から聞こえてきた。
「彼女は自分の本心と真正面から向き合うことになるだろう。【デビ】は亜美のフラストレーションが創り出した情念の化身だ。金魚に姿を変えて彼女の深層心理にもぐり込んだ、そのうち喋り出すだろう、強い怨嗟(えんさ)を感じる。だが手助けはできない」
こんな時でさえカプリスの声は信じがたいほど穏やかだ。
「あの池にさえ近づかなければ亜美は……」
「心配しなくていいんだよ狢、いずれにしても彼女は引き返さなくてはならなかったんだから」
「引き返す?」
「決して避けては通れなかったんだよ、彼女の意識がそれらのシーンを創り出している限りね」
「それならどうして僕を行かせたの?」
「亜美が正しい選択をするために時間が必要だったんだ、君との時間がね」
「亜美は僕と来た道を逆戻りするんだね」
「とりあえず館の中だ、あの廊下の水槽の前まで引き戻された」
「それじゃあまた同じことが起こるの?」
「いや、状況は変わっているし亜美は君によって方向付けられた。それに新たなトリッパーが一人加わることになる」
「新たなトリッパー?」