事故を見た記憶は消えていた。辺り一面に咲くすずらん。小さな花は風に吹かれてひっきりなしにそよいでいるのに、耳をふさがれてでもいるかのように音がしない。その不思議な無音の世界を亜美が意識した途端、風の音がした。 ─亜美─「お父さん」姿はないがそれはまぎれもなく雄一の声だった。温泉宿は消え、辺りは見渡す限りのすずらん。「お父さんどこ？」心細くなってもう一度呼ぶが返事はない。あきらめて歩き出す亜美。し…
［連載］モータル
-
小説『モータル』【第10回】
「約束したじゃないか」「頼む、逝かないでくれ」病院のドアの向こうから、すがるような父の声が聞こえてきて…
-
小説『モータル』【第9回】
斜面に停まっていたダンプカーが真っすぐこちらに急加速してきた。ボンと音を立て、父の首が不自然に曲がるのが見えて…
-
小説『モータル』【第8回】
「オハヨー」の声に誘われて行った先には、南国色の美しい羽とおしろいを塗ったような白い顔の大きな赤い鳥が…
-
小説『モータル』【第7回】
一人の老紳士が石の砦の番をしているのはカトマンザの闇の奥に広がる……森？
-
小説『モータル』【第6回】
目的地にたどり着き、やっと人心地ついた狢。ふと静まり返った暗闇を見つけ…
-
小説『モータル』【第5回】
「お父さん？」心細くて何度も呼んだ。「すずらん」が土手一面に咲き誇っていた
-
小説『モータル』【第4回】
これは夢？それとも現実？何度も夢で見た光景が目の前に広がり…
-
小説『モータル』【第3回】
入口はあっても出口はない。出口はないが終わりはある愛の部屋「カトマンザ」
-
小説『モータル』【第2回】
「お父さん！」大きな目に涙がふくれ上がり、長いまつ毛を濡らした9歳の少女
-
小説『モータル』【新連載】
朝は短く昼はない、大半が夜。仕組みや構造が現実の世界とは異なるカトマンザ
