第一章 新たな訪問者
亜美
すずらんの原っぱに投げ出された亜美は起き上がり、周囲を見渡した。
ゲネラルパウゼ……。風景は音を止めた、次に来る音を待つように。
静寂の中で風の音がした。
──亜美──
不意に父の声がした。
「お父さん」
姿はないがそれは確かに雄一の声だった。事故を見た記憶は消えていた。
「お父さんどこ?」
返事はない。亜美は歩き出す、足の向くまま真っすぐ前に。やがて一本の細い道に出た。
戸惑う亜美、道をたどっていくべきか原っぱを進むべきか。
「お父さん?」
九歳の亜美に押し寄せる抱えきれないほどの不安。
「お父さん!」
大きな目に涙がふくれ上がり長いまつ毛を濡らした。涙は透き通るような白い頬を伝いあとからあとからこぼれ落ち、彼女の空色の運動靴に当たって散った。