第一章 新たな訪問者トリッパー

カトマンザ

ポトスの葉のような二つの耳にはさまれた脳天が徐々に盛り上がり、アイボリーの柔らかい毛がムックと立った。

「見えた! 女の子だ!」

「今度も難しそうだ」

§

カトマンザに狢が来た日、深い海のように青くたゆたう闇の中で、トーテムポールとトーテムポーラがずいぶん楽しそうにお喋りしていた。

その声は周囲には娃娃娃(あああ)としか聞こえない。ポールとポーラの間を通り抜けるとそこにはカトマンザの精神(スピリット)、巨大な目(スーパージェントル)が赤々と燃える暖炉の炎を映しながら秒速七十ミリメートルでまばたきしている。

みんなは彼のことをスージーと呼んで敬愛している。そしてその更に向こうにはカトマンザを取り巻くようにして広がる森がある、カトマンザの中にだ! 

カトマンザの森はカトマンザから扇状(おうぎじょう)に広がってどこまでも続いている。入り口にはうっそうと茂る巨万の木々を擁(よう)して森の神エスタブロが、その広大な土壌を鎮めるように胡坐しているという。だが彼を見た者はいない。

緑のカンファタブリィの真上にある直径六メートルの円盤型蛍光灯が青白い光を放って暗いカトマンザを照らしている。蛍光灯の上半分にはため息のバラが犇(ひしめ)いている。カナデはブードゥーを終えてサファイアのような目を伏せながらふっと小さなため息をついた。

ため息はカナデの顔の前で白く固まりバラのつぼみになった。