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─む、む、む狢─

呼んでいるのはラッキーだ。

─き、き、き君の、あ、あ、あ青い廊下─

夢を見ているのだろうか、そう思って狢は辺りの気配にはっとした、目の前に青い廊下がある。

いつも心の中にある光景、想像で狢は何度もここへ来た。ラッキーの姿はない。引き寄せられるように歩く狢。廊下の突き当たりには銀色の扉。青い廊下と銀色の扉、地響きを立てて何かが動き出した。

「夢じゃない……」

押し寄せる恍惚、あふれ出すアドレナリン。体中の細胞がざわめき立ち血管が怒張する。

興奮の坩堝(るつぼ)で足をすくわれそうになりながら、狢はやっとのことで青い廊下の銀色の扉の前に立っていた。

「夢じゃない、本当にここに来たんだ」

うわ言のようにつぶやいてもう一度振り返り、青い廊下を眺めた。太いシッポがプシプシ揺れた。

いつもこの扉を開けてみたかった。今僕は青い廊下の銀色の扉の前にいる。胸の真ん中で心臓が大きく一回トクンと打った。

§

緑のカンファタブリィの広間には誰もいなかった。

「ナンシー?」

呼んでみても返事はない。ハンモックにラッキーの姿はなくカナデの金髪の束も見えない。みんなどこへ行っちゃったんだろう。

「ヨーラ、知ってるかい?」  

例によって小さなキノコになって立っているヨーラは反応なし。

「オハヨー、オハヨー」

カトマンザの束の間の朝を告げるオハヨーの声。

なんだろうあの声? 語尾の上がる陽気な声に誘われて狢はゆっくりと歩き出す、プシプシプシとお決まりの足音を立てて。