第一章 新たな訪問者
カトマンザ
「そう、そして彼は」
「Mr.荻(おぎ)!」
初対面のはずの狢に呼ばれ、Mr.荻はにっこり笑った。
「やあ、よく来たね狢」
「お久しぶりですMr.荻(おぎ)」
狢はピンと耳を立てて言った。
彼、Mr.荻に会うと誰もが懐かしい気持ちになって自然に「お久しぶり」という言葉が口を衝いて出るのだが、そのことに特別な理由はない。
誠実そうな表情と会う人に強烈な親しみを感じさせる風貌、胸が疼(うず)くほどの懐かしさを瞬時に抱かせる何かが彼にはある。
またもしMr.荻に特徴と言えるものがあるとしたら、それは笑顔だろう。
何もかもを引き受けてくれるような満面の笑みこそが彼の最大の特徴であり人格(パーソナリティ)の核と言っていい。
それ以外はこれといって特徴のない「どこにでもいるような床屋さん」が彼の代名詞。白い上着の胸に縫い込まれた文字は「Strong Love」、雪花菜ばあやのエプロンとおそろいだった。
亜美
大広間のステージでは風呂上りの客たちが上機嫌で盛り上がっていた。
客の着ている浴衣(ゆかた)には藍(あい)に染めた「寿楽園(じゅらくえん)」の文字、国道沿いの天然温泉付き宿泊施設。亜美は父親の雄一と数時間前にここへ来た。