第1章 直面する課題の概略~人生100年時代前夜
4.60歳以降の働き方を歴史学的に考える
「長寿命化に伴い人々は仕事を長くしなければならない時代になった」といわれるが、この表現は正しいのだろうか。仕事をするのは個人の価値観の問題である。
「しなければならない」という他者からの押し付けではないし、「しなければならない」という表現も受け身的である。
長寿命化人生は、「個人が主体的なおかつ能動的に仕事=活動=キャリアを自ら考え実行していく時代」と表現するべきであろう。
60歳以降第2の人生は組織を軸にしたキャリアではなく、なおかつ仕事を「やらねばならない」とか「やらされている」感覚ではなく、個を軸に活き活きと仕事をやっていく世界なのだ。
ここで長寿命化の歴史的意味を語る前にへブライ大学歴史学部教授のユヴァル・ノア・ハラリ氏にご登場願おう。彼は人間(ホモサピエンス)の歴史的変遷を過去から将来まで四つのワードでエポックメイキングな事象を表現している。
人間は20万年前にこの地球上に現れ、一つ目の劇的事象は7万年前の認知革命である。彼らは他の動物と同じように生活をしていた。つまり自然との共存である。
ただ脳内に虚構という概念を確立し、意識の共有感を獲得し、集団力・群れ行動力を強化し~これをアフリカサバンナ仕様と呼んでいる~、ネアンデルタール人に勝利し生き残った。
二つ目は1万2千年前の農業革命である。彼らはこの時点で定住安定生活を確立し、地球上最強の生き物になった。つまり神という虚構と人間の共存である。脳内は引き続きアフリカサバンナ仕様である。
三つ目は18世紀の科学革命である。爆発的な科学の発明、進展が見られ産業革命を起こす。ここで人間は神を放棄し、人間至上主義~ヒューマニズムを選択するようになる。人間を工場・会社に集中し集団力を強化した。
これは現代も続行中である。脳内はアフリカサバンナ仕様。四つ目は将来で、アルゴリズム革命~データ至上主義である。
このハラリ氏の歴史的分析に関して、私は人間(ホモサピエンス)の生命寿命という観点を導入してみたい。彼の分析を見ると三つ目まではほぼホモサピエンス人生が 50年以下時代の事象である。
人生100年時代の事象は、現在初めて出現したわけで、これは人間ホモサピエンス20万年史上特出すべきエポックメイキングな事象なのである。
したがって現代に生きている我々は将来のデータ至上主義社会に行く前に、ヒューマニズムが席巻する現代において、人生100年時代長寿命化という概念で分析をする必要性が生じる。