(三)

リーダは薬配給係。ニーナは帰る嬉しさで仕事は全くせず保たちと乾パンを食べ散らし、自身の塗面の様な着色写真を見せ、ほめられるのを喜ぶ少女である。

マリアは足を投出しパフで頰を叩きながら手鏡越しに時々上目使いで後部ではしゃいでいるニーナを見つめる。

野田軍医が「ニーナさん、マリアさんが怒ってますよ」と注意してもニーナは茶木綿靴下の両踵の穴を繕おうともせず澄まして「構わないわ」。

夕暮ともなればリーダの色褪せたガーネットのワンピースも夕陽に美しく映え長い髪が気持よく吹きこむ風に流れている。布団に仰向けになっている保の耳に柔い単調な絃の音が車の振動を通して響いて来た。穴から流れてくるのである。

覗き込んだ保に爺さんは微笑んでその楽器を手渡した。胴の無いギターの棹に音階調節の捻子もなく六絃をつけたものである。恐らく四病棟ドクターのギターに眩惑させられた彼が木工場に造らせたものであろう。

「保、何か弾いて下さい」