(三)
大川と仲好かった落盤で両膝下を切断された渡辺は単独歩行者以外は次回の輸送に廻されたため、色白の美しい顔を枕に伏せて横になっていたが、大川の還る様子を見度いと十九日に出発する事になった保に背負われて小窓から次々に出てゆくトラックを眺めていたがそのうちに熱い熱い涙が保の頸筋に傳わり出した。
低い嗚咽から保の両肩をむしりとる様に摑み背中に顔を伏しての慟哭へ高まってゆく。保の背筋を幾条もの涙が熱くそして冷く尾を引いて流れて行く。背中へ廻した保の両手に両脚のない膝の丸みのふるえが鈍く重く觸れている。
十九日朝、背椎カリエス患者に頼まれ雑嚢の整理をしてやる。何日来るか分らぬ次回輸送に廻された事をまだ知らないのだ。
「保さん、自分は担架で還るんですか」。
息をはずませ顔を輝かせて問いかけるのだ。予備役であろう子供は二、三人あろうかと思われる中年の人。
「途中で皆さんに御迷惑掛けるのは済みませんけど。併し」
あと數時間でカードから除外される事がはっきり分るのだ。だが当人は還れると思っている。今保が言うべきか。いやだ。
外ではまだ整列号令がかからぬのに隊伍正しく並んでいる最後へ保も毛布を肩にしてついた。