山下軍医がキニーネや下痢止の入った小さな錻力(ブリキ)を呉れた。カード毎に一人ずつトラックへ乗ってゆく。G・P・Uから保、待ったと云いに来たら……。
何事もなくカードのなかった二名の結核患者丈を残してトラックは動き出した。
ブルンク達、みんなよ、さようなら。
× ×
晴れたカラカンダ街道を二年前とは逆に駅へと急いでゆく。鈴木の造った土器を割るまいとしっかり手にして。
振返る保の目に数多の土葬者の瞑るなだらかな丘がくっきり青い。点在する包頭、駱駝を連れたジプシーとすれちがう。見渡す限りの草原。数時間後石畳のカラカンダ街に入る。
炭坑のボタ山が見えモーターの音が耳につく。坑道から出て来た日本人が真黒に煤けた顔で柵際へ駆け寄り手をふっている。やがて長く連結された木造貨車の続くフォームへ降り立った。四十二輛連結の中間車輛へ野田軍医の依頼で乗る。
車内は上下を二段に仕切り前部下段に思いがけぬフェルチェンクウ、上部にマリア、ニーナ、リーダが居りニーナ達の前には敷布のカーテンが吊してある。ドクターとマリア、リーダは保たちの附添い、ニーナは故里イルクーツクへ帰る為の便乗である。後部は野田、保、大川、食事当番が席を占めた。