すると、ネムが目をさまして、うれしそうに笑って、子犬に手をのばした。

しかたなく手にもどすと、ネムは子犬をだいて、「ジド、ジド」といって、ほおずりをした。息子がこんなにうれしそうにしているのは、本当にひさしぶりだ。

父さんは、こまったように母さんをみた。母さんも、こまったような顔をして、笑っている。

「しかたがない。飼ってやろう。ふたりでがんばれば、なんとかなるだろう」

犬はジドと名づけられ、ネムは、つぎの日から、ジドをつれて林にいくようになった。

おぼつかない足取りで、落とさないように両手でしっかりとつつんで林にはいり、原っぱにつくと、ひざにのせて歌をうたった。いつものように、動物たちがあつまってきて、ネムをかこんで、その声に耳をすました。

やがてジドは、小さい体ににあわず、大きくて長い、ふさふさの白い耳と、ふさふさのしっぽをもった犬に成長し、ネムといっしょに、どこにでもいくようになった。

ネムは、この原っぱが大好きなので、いつもそこであそんだ。ジドは、ネムがほうった棒を、耳をひらひらさせてくわえてくるし、草のうえを、いっしょにだきあってころがったりもする。それだけではない、ネムのそばに鳥や動物たちがあつまってくると、いっしょにおとなしくすわっているのだ。

鳥や動物たちは、ネムをこわがらないように、ジドもこわがらなかった。それどころか、ウサギはジドといっしょにとびはねるし、鳥はわざと低くそばを飛ぶものだから、ジドはおもしろがって、鳥たちをおいかけて走りまわり、そのうちに耳をふりながら、高くとびあがるようになった。

村の人たちは、そんなジドを、「役立たず」といった。

「あの犬だって、せめてウサギか、ウズラの一羽でもとってきたら、あの家だって、少しはらくになるだろうに。そりゃあ、荷物はこびだの、牛や羊の番だのはむりにしてもさ。ただでさえ、息子に手がかかるのに、あんな犬までかかえたんじゃ、さぞたいへんだろうよ。だいいち、犬なんか飼える身分じゃないのにな」