ネムとジド

さっきよりも高くとべた。

「スゴイ、スゴイ、トンダネ」ジドがうれしそうにいった。

「おーぐ、どんら?」

「ソウ。デキタンダヨ。サ、モウイチド」

ネムは両手をひろげて、つま先に力をいれ、かかとをあげた。

「ソノママ、リョウテヲ ウエニノバシテ!」

ネムは思いっきり両手をのばすと、「ピョーン」と大声でいって、とびあがった。体が地面をはなれた気がした。

「おーぐ、どんら!」

地面にしりもちをつくと、ジドは、ネムのうえで、耳を羽のようにぱたぱたとふり、手足をのばしたり、ちぢめたりしながら、耳をうしろにやって、そっとそばにおりてきた。

「おーぐ、どんら、どんら!」

ネムは、両手を大きくふってさけんだ。

その日いらい、ネムとジドは、両親が仕事にでかけると、すぐに原っぱにいって、石のうえをとんだ。やがて、石だけではなくて、つきでた草のうえもとぶようになった。

ネムがなによりもよろこんだのは、ジドが前足をそろえて、草のうえを高くとぶことだった。そんなとき、ネムは手をたたいて、笑いながらこういった。

「いーら、いーら、ピョーン、ピョーン」

すると、ジドは、うれしそうに横目でネムをみながら、草のうえを走りまわり、それから大きく、高くとびはねた。そのうちに、ジドは、ネムの背よりもずっと高くとべるようになった。

ときには、ネムのそばにきたスズメたちをおいかけてかけまわり、スズメたちがまいあがるのにあわせてとびあがると、両耳を水平にして、空中を、ちょっとのあいだだけど、飛ぶようになった。そのたびに、ネムはアハアハ笑って手をたたき、大声でうたった。

父さんと母さんは、ネムが、ジドといっしょに、夕方楽しそうにかえってくるのをみて、よろこんだ。

「あの子もすっかり元気になって、体もつよくなった。これで、みんなといっしょに学校にいったり、家の手伝いができるようになったりしたら、どんなにうれしいでしょうねえ」

「そうだなあ。学校にいかせてやりたいなあ。ほかの子たちは、みんないってるもんなあ。少しぐらい金がかかっても、みんなといっしょに通えるようになったら、本当にうれしいのだが。それがむりなら、せめてわしらが生きているうちに、あの子がひとりで生きていけるようにしてやらないとね」

父さんのことばに、母さんは深くうなずいた。ふたりとも、ネムのことが心配でならなかったのだ。