一方、ネムとジドは、家にだれもいなくなると、あいかわらず原っぱにいって、あそんでいた。ネムは、このごろは、立って石をとびこえられるようになっていて、これまでよりも長く歩いたり、あそんだりできるようになっていた。
ジドは、ネムのいうことは、なんでもした。たとえば、ネムがピョーンというと、草のうえを高くとび、ピョーン、ピョーンというと、耳を羽のようにひらいたり、とじたりして、木のてっぺんまでもとびあがった。
すると、ネムがよろこんで手をたたくので、ますますうれしくなって、耳を水平にし、しっぽを左右に動かして、ハトやカラスたちといっしょに空を飛んだ。
もちろん、鳥たちのように、高くも、遠くも飛べないが、それでも空を飛んだのだ。ただ、地面におりたあとは、しばらく苦しそうに息をしていたけれど。ある日、ネムとジドは、いつものように、原っぱであそんでいた。
ネムがピョーンといってとびはねると、ジドも草のうえをとびはね、ネムが、もっと、もっとというように、ピョーン、ピョーンというと、ジドは木のうえめざしてとびあがった。
もう一度大声でピョーンというと、空をゆっくりとまわりはじめたので、ネムはうれしくなって、うたいだした。やわらかな、風のふくような声だ。
ちょうどそのとき、村の子どもたちが、林に木の実をとりにきていた。子どもたちは風のような声をきくと、思わず声のするほうをみた。
するとおどろいたことに、白い、耳の長い動物が空にうかんでいて、ボロボロの服をきた子どもがひとり、手をたたきながら、空をみあげて楽しそうにうたっているではないか。
ジドは子どもたちに気がつくと、すぐに地面におりて、やぶのなかに身をかくした。けれども、ネムは、気がつかずに、うたいつづけた。子どもたちは、もうネムのことは思いだしもしなかったが、その独特のやわらかな声と、まがった足はよくおぼえていた。
「あれネムじゃないか!」
「まさか。あんなふうには立てないよ」
「さっき、白いのが空をとんでいた」
「鳥じゃなかったよね」
さわぎながらかけよると、ネムは、ひさしぶりに友だちに会えたのがうれしくて、顔をくしゃくしゃにして笑った。でも、子どもたちは、
「こんなとこで、なにしてんの?」
「さっき空にいたのは、なんだい?」
そう早口でたずねたものだから、どうこたえていいかわからなくて、だまってうえをむいた。それでみんなもうえをむいたが、まわりの木のほかは、なんにもみえない。
「こいつ、やっぱり、なんにもわかんないんだ」
「こんなやつ、相手にするだけそんだ。さ、いこうぜ」
【前回の記事を読む】「やっぱり、うちじゃ飼えないよ。かわいそうだけど、ねているうちに、すててこよう」 …